この歌を初めて聴いたのは90年代の終わりころ。テレビから流れてきた歌声に「太田裕美?」と気づき、なんとはなしに目を向けたHNKの”みんなのうた”だった。アニメーションと歌詞のモチーフがまるで絵本のようで、こういう世界観と語り口は太田裕美の十八番とするところ。ちなみに、作詞作曲とも太田裕美です。今、聴き返してみると巧みなプロットで、彼女の作家としての偉大さもあらためて思い知らされる。
ストーリーの語り部はタイトル通り「君の涙」。大地にこぼれ落ちた「涙の雫」が、水蒸気になり雨になり、空を旅してゆく様子が延々と語られてゆく。ひとつひとつの言葉はとてもシンプルなのだけど、結びつけると優しさと力強さが感じられる。
濁った川さえきれいに流して 花を咲かせよう この丘一面
やがて、浄化されて透き通った水になった「涙」は木の根に吸われ、花を咲かせ葡萄の実になり、ワインとなる。ここまでの流れで、水がきれいになっていく様子は「涙」のもとになった悲しみがぬぐわれ薄れ、もう一度スタート地点に立つというメタファだ。
そしてサビ。序破急でいう急の部分で、主人公があざやかに入れ替わる。物語から(故意に)外れていた「君」が再登場し”グラスをあわせて、微笑みうかべる”のである。ここが上手い。ワインで乾杯というシーンで、グラスの向こう側に悲しみを癒させた人物がいることも、さりげなく想像させる。
つまりこの「涙」の長い旅は「君」の時間そのものを表していたのだ。悲しみを空と大地に解放した「涙」は君の元に戻ってきた。次の涙は、悲しみの涙とは限らない。